押しばね(圧縮コイルばね)を設計して、図面仕様を決定するときの実践的なポイントについてまとめました。
押しばね(圧縮コイルばね)設計 5つのポイント
ポイント1 押しばね端部の形状
押しばね(圧縮コイルばね)の代表的な端部形状は以下のようなものがあります。
一般的にはばねの端部取付けを安定させるためにばねの端面を平らに削る「b)クローズドエンド研削」にします。端面は約3/4巻研削します。
線径が1mm以下の場合やばね指数(ばね指数=コイル平均径÷線径)が大きい場合には、端部を研削しなくとも端部の取付けが安定するので「a)クローズドエンド無研削」にすることが多いです。
研削するほうが工程が増えるので当然コストは高くなります。削るための専用治具が必要になることもあります。
押しばねの端部形状は、ばねを取り付けた時の安定感とコストのバランスを考えて決定します。
ポイント2 ばね特性の許容差を指定するときの注意点
ばね特性とは、①指定長さのときの荷重 ②ばね定数 をいいます。
図面で仕様を決定するときには、基本的には「ばね特性」の許容差は指定しません。
どうしても「許容差」を指定する必要がある場合に、「ばね特性」の「①指定長さのときの荷重」の許容差(公差)を指定します。
さらに、なお、必要性があると認められる場合に「②ばね定数」の許容差を指定します。
ばね特性の許容差を指定した場合には、自由長さは参考値とします。自由長さに許容差は付けません。
「ばね特性」と「自由長さ」の両方に許容差をつけた場合は、量産製造が困難になってコストが高くなることがあります。
また、指定荷重やばね定数はばねのたわむどこの場所でも指定してよいというわけではありません。下記のようなルールがあります。
「指定長さのときの荷重のルール」
指定長さは全たわみの20~80%の間になるように指定します。
荷重は最大試験力の80%以下でないといけません。
「ばね定数のルール」
全たわみの30~70%にある2つの荷重点における「荷重の差」÷「たわみの差」で求めます。
荷重は最大試験力の80%以下でないといけません。
※基本計算式
全たわみ=計算上の自由長さ-計算上の密着長さ
計算上の密着長さ=(総巻数-1)×線径+両コイル端部の厚さの和
ばねの最大試験力については、次をご参照ください。
ポイント3 ばね指数
ばね指数とは、コイル平均径を線径で割った数字をいいます。
記号で書くと、c=D/dとなります。ばね指数のことをディーバイディーともいいます。
ばね指数は3~22の範囲内で設計することが推奨されています。
また、ばね指数によって許容差の範囲が変わってきます。
ばね指数が小さすぎたり大きすぎたりすると加工性が問題となり、製造不可になったりバラつきが大きくなったり、コスト増になったりします。
ポイント4 縦横比
縦横比は、「自由長さ」÷「コイル平均径」です。
コイル平均径は、(「コイル内径」+「コイル外径」)÷2です。
縦横比は4以下がよいとされます。4を超えると押しばねが座屈して、計算どおりの荷重がでなくなります。
どうしても縦横比4以上で設計しなければならない場合には、座屈を考慮して「案内」をします。
案内は、ばねの内側に案内棒を置いたり、筒の中にばねを入れて座屈を支えたりします。
案内をする場合には、接触する案内との摩擦の関係や、接触した場合には計算通りの荷重が出ないことを考慮する必要があります。
計算だけでなく、実際の取り付け実験を行い、荷重や寿命をテストする必要がより必須となります。
また、縦横比は0.8以上が望ましいとされています。これは、最低限の有効巻数を確保する必要性があるからです。
縦横比が小さいと有効巻数が少なって、実際のばね特性のバラつきが大きくなり、設計計算通りのばねにならないとこが多いです。
ポイント5 その他の諸注意
①有効巻数
有効巻数は3以上が望ましいです。有効巻数が少ないと、ばね特性のバラつきが大きくなります。
②総巻数
ばね特性の指定がない場合には、総巻数の許容差は±1/4になります。
ばね特性の指定がある場合には、総巻数は参考値になります。
③密着長さの指定
密着長さは一般的には指定しません。
指定するときは、「総巻数」×「線径の最大値」とします。
計算上の密着長さの計算式(ポイント2 基本計算式 参照)と違うので注意が必要です。
④ピッチ
ピッチは0.5D(0.5×コイル平均径)以下とします。
0.5Dを超えると荷重の増加に従いコイル平均径が変化し、ばね設計計算の数値と合わなくなっていきます。
ばね設計の計算公式は、ピッチが限りなく小さいことを前提に作られています。ピッチが大きいと修正が必要になります。
なお、一般的にピッチを求める計算式は、以下のようになります。
ピッチ=(自由長さ-密着長さ)÷有効巻数+線径
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