マルエージング鋼は、もともとは航空機やロケット用に開発された高強度の材料です。マルエージング鋼は、非常に高価な材料です。
マルテンサイトという金属組織を時効処理という熱処理(英語でエージングという)して強度を高める材料なので、「マルエージング鋼」と名付けられました。日本ではゴルフクラブのヘッドの素材に使用されることが多いようです。
マルエージング鋼は非常に高強度で疲れ強さや耐へたり性に優れた材料で、遅れ破壊や応力腐食に対しても良好な性質を示します。ただし、耐食性については通常のばね材料(硬鋼線やピアノ線)と同等のレベルしかありません。
ステンレス鋼線と同じような耐食性があると勘違いされることが多いので注意が必要です。
マルエージング鋼は高強度なだけに錆が少しでも発生すると、錆の部分から早期の折損が発生しやすい傾向があります。どうしても錆が発生しやすい環境で使用する場合には、ばねの取り換えがすぐにできるような設計にしておく必要があります。
その他の特徴としては、時効処理による歪みが少ない、耐低温脆性に良好である、熱膨張率が小さい、窒化処理が容易である、といった性質があります。
また、マルエージング鋼で注意するもう一つの点は、輸出規制がされているということです。軍事用に使用されることが多いため、各国で規制の対象となっています。日本でも輸出の規制をしています。
マルエージング鋼の成分は、主要材料の鉄にNi・Co・Moが約30%含まれています。炭素の含有率が非常に低いのが特徴です。
また、析出硬化させるためにAlやTiが少量添加されています。ステンレス鋼線のようにCrが含まれていませんので、耐食性はそれほど高いわけではありません。
マルエージング鋼はいくつかの種類がありますが、Niがどの程度含まれるかで区分されています。
ばね用のマルエージング鋼としては、「18%Niグレード」の「0.2%耐力:2050MPa級」 のマルエージング鋼がよく使用されています。
18%ニッケルグレード
0.2%耐力 | C | Si | Mn | Ni | Co | Mo | Al | Ti |
1350MPa |
0.03 以下 |
0.12 以下 |
0.12 以下 |
17.0~19.0 | 8.0~9.0 | 3.0~3.5 | 0.05~0.15 | 0.15~0.25 |
1700MPa |
0.03 以下 |
0.12 以下 |
0.12 以下 |
17.0~19.0 | 7.0~8.5 | 4.6~5.1 | 0.05~0.15 | 0.3~0.5 |
2050MPa |
0.03 以下 |
0.12 以下 |
0.12 以下 |
18.0~19.0 | 8.0~9.5 | 4.6~5.2 | 0.05~0.15 | 0.5~0.8 |
2350MPa |
0.03 以下 |
0.12 以下 |
0.12 以下 |
17.0~19.0 | 12.0~13.0 | 3.5~4.5 | 0.05~0.15 | 1.2~1.8 |
20%ニッケルグレード
0.2%耐力 | C | Si | Mn | Ni | Al | Ti |
1700MPa | 0.03以下 | 0.12以下 | 0.12以下 | 18.0~20.0 | 0.05~0.15 | 1.3~1.6 |
25%ニッケルグレード
0.2%耐力 | C | Si | Mn | Ni | Al | Ti |
1700MPa | 0.03以下 | 0.12以下 | 0.12以下 | 25.0~26.0 | 0.05~0.35 | 1.3~1.6 |
ばね用のマルエージング鋼は、材料を伸線加工するときに容体化熱処理により強度がたかめられています。ばねを成形後は時効処理を行います。
一般的には、容体化処理は800~850℃で15~60分、時効処理は480~520℃で3~5時間の熱処理を行います。材料の種類やばねの寸法によって個々の熱処理条件は異なります。時効処理不足は遅れ破壊の原因となるので、できるだけ高温域で過時効気味に熱処理するのがポイントとなります。
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