チタンは、軽く、強く、錆びない金属材料です。チタンという名は、ギリシャ神話の巨人神タイタンにちなんで名づけられました。
チタン(原子番号22)は、自然界に豊富に存在する物質です。しかし、製錬が難しく、実用化されるようになったのは、つい最近のことです。
1910年にアメリカのマシュー・ハンターがはじめて高純度のチタンの分離に成功しました。現在の工業用チタンの製造法であるクロール法は、1946年にルクセンブルクのウィリアム・クロールによって開発されました。
チタンの製造は、鉄鋼に比べて非常に複雑で、連続生産することができません。そのため、チタンはとても高価な材料になっています。
チタンの使用例としては、「錆びない」という特徴から、従来より化学産業などの耐食性材料として使用されてきました。チタンの「軽量」という特徴からは、航空機産業や自動車産業の部品の軽量化に活用されています。
最近では、ゴルフヘッドや自転車、アウトドア用品などの趣味の分野でもチタン材料は活躍しています。また、医療分野(インプラント材料)としても注目されてきています。
ばね用材料としてのチタンは、まだそれほど一般的な材料ではありません。チタンは高価なため、部品としての市場実績が少ないのが現状です。
チタンばねの設計・材料・製造・熱処理などについても、まだまだ不明な部分があり発展途上にあります。
チタンは軽量です。比重は4.51です。
比重とは、基準となる4℃の水(比重が1)と比べたときの質量(または重さ)の比です。比重が1より大きいと水に沈み、1より軽いと水に浮きます。
他の材料と比較した場合、チタンはどのくらい軽いのでしょうか。
代表的な金属材料の比重は次のようになります。
鉄鋼(7.87)、銅(8.82)、鉛(11.43)、金(19.32)
チタンの比重をそれぞれの金属の比重で割ってみます。すると、チタンは鉄鋼に対して57.3%の重量になります。銅に対しては51.1%で約半分の重さです。鉛は49.5%、金は23.3%の重量になります。
ばねをチタン材料で設計し製造した場合、どのくらい軽くなるのでしょうか。
チタンばねの軽量化効果について、「ばね論文集41(1996)」(藪下毅士・高村典利・丹下彰)のデータを参考資料として以下に示します。
材質 | OT線 | チタン材 |
線径(mm) | 4.2 | 4.3 |
ばね定数(N/mm) | 7.6 | 7.6 |
コイル外径(mm) | 43.0 | 43.0 |
最大たわみ量(mm) | 66.0 | 66.0 |
自由高さ(mm) | 103.0 | 90.0 |
ばね重量(g) | 118.0 | 51.0 |
このデータは、弁ばねを設計した事例です。OT線(オイルテンパー線 弁ばね用シリコンクロム鋼 SWOSC-V)とチタン材(チタンβ合金 Ti-13V-11Cr-3Al)を比較しています。チタン合金の化学成分の前についている数字は、それぞれの成分の含有%を示しています。チタンβ合金は時効熱処理をすることで、ばね用チタンとして必要な引張り強さを得ることができます。
このデータによると、チタンばねの方がオイルテンパー線で製造するよりも、自由高さで13%、ばね重量で57%を減少するという結果になりました。コンパクト化、軽量化に効果があることがわかります。
チタンのヤング率(縦弾性係数)は鉄鋼材料の約半分です。鉄鋼よりもかなりの強度があります。
ばねとしての引張り強さや、疲れ強さも高く、へたりが少ない材料です。また、固有振動数が高く、サージングが起こりにくいという特徴もあります。
アルミニウムと比較した場合、軽さの点ではアルミニウムの方が勝ります(チタンほうが約60%重い)が、強度はアルミニウムの約2倍あります。
チタン合金は、高温の600℃でも他の金属材料に比べて引張強さが高いです。純チタンは300℃まで、チタン合金は500℃くらいまでなら強度は安定しています。
低温域については、チタンはマイナス269℃でも強度が保てます。
また、チタンは海水中でも疲労強度がほとんど低下しないことが知られています。
チタンは難加工の材料です。伸線加工や切削加工の難しい材料です。
原因は、熱伝導率が低く比熱が小さいことにあります。チタンはもともと活性な物質で化学反応を起こしやすい性質があります。熱伝導率や比熱が小さいと、加工している部分の温度が急激に上昇して化学反応が促進され、チタンと相手部品がすぐに焼き付いてしまいます。
ばねを製造する場合、コリリングマシンでチタンを巻取りをすると、ワイヤーガイドやコイリングピンが焼き付く可能性があります。芯金で巻き取れば問題ないですが、大量生産には向いていません。
焼き付き防止のため、ばねに使用するチタン材料にニッケルメッキをする対策がありますが、コストが高くつくのが難点です。
チタンは耐食性に非常にすぐれた材料です。ステンレスと違い、チタンは塩素イオンにも耐性があり、耐海水性に優れた性質を発揮します。
ただし、乾燥塩素ガスとは激しく化学反応するので注意が必要です。
チタンは酸化性の酸には優れた耐食性を示しますが、高温・高濃度のアルカリに対しては腐食する恐れがあります。耐アルカリ性に対しては、耐食チタン合金が開発されています。
チタンの磁性は非常に弱いです。わずかに磁石に反応する程度です。
チタンは熱しやすく冷めやすい性質があります。
チタンは、885℃で相変態を起こし、性質が変わります。低温ではα相、885℃以上ではβ相になります。α相は強度がありますが加工性に劣り、β相は強度に劣るが加工性に優れます。
チタンに化学成分を添加することで、885℃以上でなくてもα相やβ相を人為的に作り出すことができます。合金元素と熱処理によって、さまざまな割合でα相とβ相を安定化させ、目的の機械的性質にあったチタン合金を製造します。
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