ばねの破壊(折損)に関する用語、ばねが折れたときの主な原因と対策などについて説明します。
弾性と塑性
弾性とは、材料に負荷された応力を取り除いても変形せずに元の形状に戻る場合をいいます。変形して元に戻らない場合は塑性といいます。
疲労破壊
弾性限の範囲内でも、ばねに何千万回と繰返し応力を負荷すると材料の強度が次第に低下して破壊(折損)する現象をいいます。
応力の負荷と取り除くと、目で見た範囲では元の形状に戻っているように見えますが、原子レベルでは応力を受けるたびに微妙にズレが生じています。
それが積もり積もって微小な割れ目(クラック)となり、さらに応力を受けることで割れ目が拡大し、最終的に破壊(折損)に至るとされます。
脆性破壊
弾性限の範囲で応力を負荷すると、原子の組織はスムーズに移動して破壊(折損)せずに変形します。
しかし、この移動を妨げるようなことがあるとスムーズな移動ができなくなり、弾性限の範囲でも早期にばねが破壊(折損)することがあります。
この現象を脆性破壊といいます。
例えば、低温では原子の動きが鈍くなるため破壊(折損)することがあります。これを低温脆性といいます。
また、水素が結晶内に入ることで(水素は小さいので隙間に入り込みやすい)、水素が障害物となって原子が動きにくくなり破壊(折損)することがあります。これを水素脆性といいます。
経年劣化
応力ではなく環境(温度や電圧など)の繰返し負荷によって耐熱性や絶縁性などが低下する現象をいいます。
遅れ破壊
高強度鋼でばねを製造した場合、静的応力を負荷した状態で、ある程度時間が経過すると、突然脆性的に破壊(折損)する現象をいいます。
このとき、塑性変形は起こりません。なぜ破壊(折損)するのかは、まだ解明されていません。
有力説は水素ガス面圧説です。なんらかの理由で鋼の中に入った水素が水素分子となり、水素ガスの大きな圧力が限界を超えると、破壊(折損)に至るという説です。
フラクトグラフィ
ばねの破断面を観察して、ばねが破壊(折損)に至った原因や破壊に至るプロセスなどを解析すること。
ルーペなどで破断面やキズの状況を目視で観察したり、顕微鏡写真で金属組織の状態を観察したりして原因や破壊(折損)に至るプロセスを推定します。
破壊された起点がばねの表面かそれとも材料の内部かを観察したり、ばねの破壊(折損)した部位がコイル内部か座部かフック部かなどを観察して、異常な負荷のかかった応力の方向や要因を分析していきます。
ばねが破壊(折損)すると、「ばねを製造した会社に原因がある」ということになりがちですが、実際には複合的な原因でばねの破壊(折損)は起こります。
ばねの製造会社と組立ユーザーとの双方で対策をとるのが効果的です。
ばねの破壊(折損)が使用時に起こる原因の多くは、疲労破壊です。ほとんどのケースは、寿命がつきて破壊(折損)する場合です。
しかし、ばねの使用の早期に破壊(折損)が発生する場合もあります。その原因を分類すると次のようになります。
多い順としては経験的に、①ばねのキズ ②使用環境 ③設計ミス ④力学的原因 となります。
1.ばねのキズが原因となる場合(製造加工治具や組立工程の見直しが必要なケース)
①ばねを作動させているときに発生するキズ
・ばねを組み付けている相手方部品と接触してできたキズ
・引きばねの場合には、フックと取付け部品とが擦れてできたキズ
・押しばねを圧縮した場合に、外部部品と接触してできたキズ
・ねじりばねと案内棒が接触してできたキズ
・ばね同士が接触してできるキズ
・押しばねを圧縮したときに線同士がぶつかってできたキズ
・組み合わせて使用する内側ばねと外側ばねが接触してできたキズ
②ばねを加工中に発生したキズ
・フィードローラー(材料を送るローラー)によるキズ
・コイリングピン(コイル径を加工する治具)によるキズ
・ツールマーク(曲げ加工したときの治具による打痕)によるキズ
③ばねを組み付け時に発生したキズ
・無理な組み付けで発生したばねのキズ
2.ばねの使用環境が原因の場合(材質や表面処理の再検討が必要なケース)
①高温あるいは低温で使用する場合
②湿度の高い環境で使用する場合
③塩分の多い環境で使用する場合
④振動の多い環境で使用する場合
3.ばねの設計ミスによる場合(ばねに負荷がかかりすぎて早期に破損するケース)
①ばねの設計を最後にしたため、小さなスペースで無理な設計をした場合
②引きばねの場合に、テンパー(低温焼なまし)による初張力減少を計算に入れず荷重計算した場合
③オイルテンパー線にメッキをした場合(水素脆化が非常に大きくなる)
④曲げ角度や曲げRが小さすぎる場合
⑤押しばねの場合、全巻6.5巻とか8.5巻のように半巻き単位にした場合には、計算上の荷重値は平均値として出るが、実際にはコイル部の左右で1巻分の力の差があり均一な力とならないため、圧縮すると傾いて内部や外部の部品に接触する可能性が高まる。
⑥ねじりばねは負荷をかけると内径が小さくなるので、案内棒の寸法をギリギリにすると接触してすぐに破損する恐れがある。
⑦ばねのコイル径に対して自由高さが長すぎると座屈して、内部や外部の部品に接触してキズをつくる。
4.力学的原因
①適切な温度でテンパーをしなかったため、有害な残留応力により折損する場合
②メッキ工程での水素脆化による折損の場合
③共振(サージング)による破損の場合
④材料内部に介在物が混入していた場合
①ばねの使用中の早期破壊(折損)は、「ばねだけ」が原因で起因することは少ないです。
周りの部品の状況や使用されていた環境、組立工程や組み付けられた状態も合わせて検討する必要があります。
「ばねだけ」で対策しようとすると、結局さらに無理な仕様となりがちで、ばねの製造コストが高くなる可能性があります。低コストで対策できるように、さまざまな観点から対策をすることが望まれます。
例えば、ばねの公差を異常に精密にする(製造の困難さと全数選別検査の必要性がある場合)よりも、組立工程においてばねにグリスを塗布することで低コストで解決した例もあります。
②材料の分析機関に破断面の分析を依頼する場合には、サンプルのばねを錆させないようにすることが重要です。
破断面は特に錆びやすいので注意が必要です。錆びた破断面では破断された情報が消滅していまい、正確なデータ分析ができなくなるおそれがあります。
また、ホコリや糸屑などの異品が付着しないように保管しましょう。
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