チタンは885℃を境に、低温側はα相に、高温側はβ相になり性質が変わります。工業的に使用されるチタン合金は、化学成分を添加してα相とβ相の比率を調整し、加工に適した合金にしています。
チタンは、純チタン・αチタン合金・α-βチタン合金・βチタン合金の種類があります。
α相を安定かさせる化学元素にはAl・O・N・Cがあります。また、β相を安定化させる化学元素にはV・Fe・Crなどがあります。
α相とβ相の性質は次のようになります。
| α相 | β相 | |
| ヤング率 | 増大 | 低下 |
| 耐食性 | 増大 | 低下 |
| クリープ強度 | 増大 | 低下 |
| 熱処理性 | 減少 | 向上 |
| 靭性 | 低い | 高い |
| 加工性 | 低い | 高い |
| 溶接性 | 高い | 低い |
| 比熱 | 低下 | 増大 |
純チタンは化学成分を含まないチタンのことです。しかし、純チタンは文字通りの「純チタン」ではありません。工業用純チタンは、FeとOを添加して機械的性質を調整しています。もともとFeもOも不純物だったのですが、チタン精錬の技術が上がり純度が高くなり過ぎたので、わざわざ添加するようになりました。
純チタンは工業用純チタンは、CP(Commercially Pure)といわれ、化学的な純チタンとは区別されています。
純チタンはJISでは3種類が定められています。工業用純チタンとしてはJIS2種が最も多く使用されています。ばね用としては、引張り強さが求めらるので、JIS3種の方が適しています。
■JIS規格 純チタンの化学成分
| 種類 | JIS1種 | JIS2種 | JIS3種 |
| 記号 | TW270 | TW340 | TW480 |
| N | 0.03以下 | 0.03以下 | 0.05以下 |
| C | 0.08以下 | 0.08以下 | 0.08以下 |
| H | 0.013以下 | 0.013以下 | 0.013以下 |
| Fe | 0.20以下 | 0.25以下 | 0.30以下 |
| O | 0.15以下 | 0.20以下 | 0.30以下 |
■JIS規格 純チタンの機械的性質
| JIS1種 | JIS2種 | JIS3種 | |
| 引張り強さ(MPa) | 270~410 | 340~510 | 480~620 |
| 伸び(%) | 15以上 | 13以上 | 11以上 |
αチタン合金は高温や低温で安定的な機械性質を示します。また、耐食性については耐海水性に大変優れた材料です。しかし、αチタン合金には熱処理性がなく、加工性はそれほどよくありません。
JISでは1種類のαチタン合金が定められています。
■JIS規格 αチタン合金の化学成分
| 種類 | JIS50種(Ti-1.5Al) |
| 記号 |
TW1500 |
| N | 0.03以下 |
| C | 0.08以下 |
| H | 0.015以下 |
| Fe | 0.30以下 |
| O | 0.25以下 |
| Al |
1.00~2.00 |
Ti-1.5Al…化学成分Alの前の1.5は成分%を示しています。
■JIS規格 αチタン合金の機械的性質
| JIS50種(Ti-1.5Al) | |
| 引張り強さ(MPa) | 345以上 |
| 伸び(%) | 20以上 |
AMS(航空宇宙材料規格)には、次のようなαチタン合金の規格があります。
AMS4926 Ti-5Al-2.5Sn
α-βチタン合金は、中くらいの強度で耐食性に優れた材料です。熱間加工性がよいのが特徴です。また、切削性や溶接性にもよい性質を示します。
JIS規格では2種類のα-βチタン合金が定められています。JIS61Fの方が切削性に優れています。
■JIS規格 α-βチタン合金の化学成分
| 種類 | JIS61種(Ti-3Al-2.5V) | JIS61F種(Ti-3Al-2.5V) |
| 記号 |
TW3250 |
TAW3250F |
| N | 0.03以下 | 0.05以下 |
| C | 0.08以下 | 0.10以下 |
| H | 0.015以下 | 0.015以下 |
| Fe | 0.25以下 | 0.30以下 |
| O | 0.15以下 | 0.25以下 |
| Al |
2.50~3.50 |
2.70~3.50 |
| V |
2.00~3.00 |
1.60~3.40 |
| S | ― | 0.05~0.20 |
| La+Ce+Pr+Nd | ― | 0.05~0.70 |
La…ランタン(原子番号57)、Ce…セリウム(原子番号58)、Pr…プラセオジム(原子番号59)、Nd…ネオジム(原子番号60)
■JIS規格 α-βチタン合金の機械的性質
| JIS61種(Ti-3Al-2.5V) |
JIS61F種(Ti-3Al-2.5V) |
|
| 引張り強さ(MPa) | 700~900 | 650以上 |
| 伸び(%) | 9以上 | 6以上 |
AMS(航空宇宙材料規格)には、次のようなα-βチタン合金の規格があります。
AMS4972 Ti-8Al-1Mo-1V
AMS4981 Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo
AMS4983 Ti-10V-2Fe-3Al
Zr…ジルコニウム(原子番号40)
βチタン合金は冷間加工ができるチタン材料です。ヤング率が低く、疲れ強さが高い特徴があります。また、チタン合金の中で最も引張り強さが高く、ばね材料として優れた性質を持っています。
JISでは1種類のβチタン合金が定められています。
■JIS規格 βチタン合金の化学成分
| 種類 | JIS80種(Ti-1.4Al‐24V) |
| 記号 |
TW4220 |
| N | 0.05以下 |
| C | 0.10以下 |
| H | 0.015以下 |
| Fe | 1.00以下 |
| O | 0.25以下 |
| Al |
3.50~4.50 |
| V |
20.0~23.0 |
■JIS規格 βチタン合金の機械的性質
| JIS80種(Ti-1.4Al‐22V) | |
| 引張り強さ(MPa) | 640~900 |
| 伸び(%) | 6以上 |
AMS(航空宇宙材料規格)には、次のようなβチタン合金の規格があります。
AMS4983 Ti-13V-11Cr-3Al
AMS4983 Ti-3Al-8V-6Cr-4Zr-4Mo
AMS4983 Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al
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