ばね材料の化学成分にはさまざまなものがあります。主要なばね材料に含まれている特殊な化学成分の元素の働きについて説明します。
クロム、ニッケル、銅、バナジウム、モリブデンについて。
ばね材料の種類ごとの化学成分については、下記のページの一覧表をご参照ください。
クロムは鉄に添加される化学元素の中では、5大元素(C・Si・Mn・P・S)についで、重要な添加物です。ばね材料では硬鋼線とピアノ線以外の鋼種に添加されることがあります。クロムは鋼に対してさまざまな良好な性質を発揮する元素です。
クロムの最大の特徴は、表面がすぐに酸化し不動態を形成して優れた耐食性を示すことです。この性質を利用した鋼の代表的なものがステンレス鋼です。鉄とニッケルと10.5%以上のクロムを含む合金をステンレス鋼といいます。また、この耐食性 の性質はめっきにも多く利用されています。クロムめっきの耐食性の良さは優れたものがあります。
クロムには焼入れ性を大きく改善する性質があり、焼戻しの時には炭素と反応してクロム炭化物を形成し、焼戻し軟化抵抗を高める働きがあります。
クロムは耐高温水素脆化や耐クリープ性も向上させます。クロムカーバイトは耐摩耗性に優れており、合金工具鋼にはクロムが添加されています。また、クロムに1%程度のマンガンを添加すると反強磁性の金属なる性質もあります。
このようにクロムはさまざまな優れた性質を示す化学元素ですが、いいことばかりではありません。毒性もありまう。工業的には六価クロムがよく使われていましたが、毒性が強く土壌汚染問題など環境負荷が大きいため、欧米などでは規制が厳しくなっており、使用が減少してきています。四価クロムは発癌性物質です。
一方、クロム単体や三価クロムには毒性がありません。三価クロムはむしろ人体には不可欠なミネラルです。三価クロムが体内で減少すると、糖代謝異常となり糖尿病を発症します。
クロムは1797年にフランスのルイ=二コラ・ヴォークランによって発見されました。ヴォークランはベリリウムの発見者でもあります。酸化されたクロムはさまざまな色に発色しますが、ルビーが赤色にエメラルドが緑色に発色するのはクロムが鉱物に不純物として混じっているからです。このことも、ヴォークランにより翌年に発見されました。
ニッケルは鉄と共に最も安定的な元素です。ニッケルは地球の地殻にはあまり多く含まれていないため、貴重な金属です。しかし、地球の近くには比較的多量に存在しています。
ニッケルは耐食性に優れており、ステンレス鋼の原料の一つになっています。ステンレス鋼のもう一つの主要原料のクロムは酸化性の酸には強い耐食性を示しますが、非酸化性の酸に対してはあまり耐食性がよくありません。そのため、ニッケルを8%以上添加し、クロムの弱点を補っています。
また、光沢があり耐食性に優れているためニッケルめっきに利用されています。ニッケルめっきは光沢のある非常に綺麗なめっきで装飾的機能もあり、二重リングなどの雑貨品などにもよく利用されています。
ニッケルは耐食性以外にも他の化学元素にないさまざまな優れた働きをします。鋼に強靭性を与えるため、機械構造用合金鋼に添加されます。また、ニッケルベースの合金である各種のインコネルは耐熱性に非常に優れていることでよく知られています。形状記憶合金はニッケルとチタンの1対1の合金です。
ニッケルは、1751年にスェーデンのアクセル・クルーンステットが初めて分離に成功しました。クルーンステットは鉱物を化学成分ごとに分類した創始者といわれています。
ニッケルという名はドイツ語で「悪魔の銅」という意味です。
ニッケルは貴重でしかも軍事的にも特殊鋼や薬莢に使用されるため、国家的に備蓄されています。日本では戦前には純ニッケル硬貨を発行して、それを名目に海外からニッケルを輸入していました。また、京都の大江山にはかつて軍事用のニッケル鉱山がありましたが、今では「新・花の百名山」となっています。
銅は鉄の次に重要な金属です。
ばね用鋼材にとって銅は基本的には不純物として扱われます。
硬鋼線では規格化されていませんが、ピアノ線は銅の含有量をどの程度抑えるべきか厳しく規定されています。例外的に銅の析出硬化の性質を利用して、ばね用ステンレス鋼帯の析出硬化系ステンレスであるSUS632J1-CSPには、0.40~1.00%の銅が添加されています。
また、銅の用途としては、ニッケルめっきの下地としてもよく使用されています。銅下ニッケルめっきともいわれ、ニッケルめっきの付きがよくなります。
銅の一般的性質としては、電気伝導率がよく、耐候性があることです。伝導性の良さは電線に利用され、耐候性の良さは屋根葺きに使用されたりしています。また、銅には殺菌作用があり、微生物やコケが繁殖できません。
銅の弱点は、降伏強度が弱く柔らかいために機械加工に適さない点です。そのため、他の金属と合金をつくることで、機械的に優れた性能を発揮させることができます。
銅の合金としてばね用に適するものとしては、黄銅やリン青銅、洋白、ベリリウム銅があります。
黄銅は銅と亜鉛の合金です。真鍮ともいいます。銅合金の中では最も安価です。
青銅は銅とスズの合金です。ブロンズともいいます。リンを添加することでリン青銅となります。リン青銅は、冷間加工性やばね性に優れた材料です。
洋白は銅と亜鉛とニッケルの合金です。良好なばね性を持ちます。光沢があり装飾に向きます。
ベリリウム銅は銅にベリリウムを添加したものです。ベリリウム銅は延性があり、溶接性や冷間加工性、ばね性に良好です。
銅は自然銅として自然中に存在し、約1万年前から人類は使用してきました。青銅は最も古くから使用されていた銅合金です。日本では、17世紀に足尾銅山や別子銅山など約50の銅鉱山があり、当時は世界第1位の銅の産出量を誇っていました。
銅の用途は昔から硬貨として利用されることが多かったようです。現在の日本では、10円硬貨は青銅(ブロンズ)、50円・100円・旧500円硬貨は白銅(銅とニッケルの合金)、新500円硬貨はニッケル黄銅(洋白)が使用されています。
バナジウムの用途は8割が製鋼の添加剤です。
鋼にバナジウムを添加すると、炭素と結合して結晶粒がより細かい金属構造になるため、靭性を損なわず強度を上げることができます。また、耐熱性や耐へたり性など機械的性質も向上させることができます。しかし、一定量以上添加すると焼入れ硬さが低くなるので注意が必要です。
バナジウムの合金であるクロムバナジウム鋼は、表面に硬度や耐摩耗性があり、高温衝撃に対する破損抵抗に必要な高速度工具鋼として利用されています。
バナジウムは1867年にイギリスのヘンリー・ロスコーによって初めて金属バナジウムが得られました。バナジウムは非常に綺麗なさまざまな色に着色することから、北欧神話の美の女神であるバナジスにちなんで名付けられました。
バナジウムは地球上ではどこにであるありふれた化学元素ですが、資源としての埋蔵は非常に偏っています。ロシア・中国・南アフリカ・アメリカで9割以上を占めます。
バナジウムは工業上重要であるにもかかわらず、このように産出国が偏っているため、日本ではリサイクル体制の確立が重視され、廃触媒や重油からの回収が進められています。
モリブデンは各種合金鋼の添加剤として用いられます。
焼入れ性を向上させ焼戻し脆性を防止し、鋼に靭性を与えます。合金工具鋼や高速度工具鋼などに利用されています。また、鋼の耐熱性や耐クリープ性にも有効で、高温で使用する鋼に添加されています。
みがき特殊鋼帯には、クロムモリブデン鋼やニッケルクロムモリブデン鋼が規格化されています。また、クロムモリブデン鋼は熱間成形のばね鋼としても使用されます。
モリブデンは酸化被膜強化のためにステンレス鋼に添加することもあります。SUS316のステンレス鋼線にはモリブデンが2.0~3.0%添加されています。
モリブデンは1778年にカール・シェーレによって発見されました。地球の近くにはそれほど多く存在しない貴重な鉱物です。
モリブデンは人体にとっては必須のミネラルです。血を作る作用や、体内から銅を排出させる作用、また尿酸の生成などの機能があります。植物にとってもモリブデンは必須の化学成分となっています。
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