代表的な硬さ試験についての説明です。ばねの硬さは、機械的性質であるばねの引張強さと密接な関係があります。
硬さ試験には色々なものが考案されていますが、ここでは代表的な「ブリネル硬さ試験 」「ビッカース硬さ試験」「ロックウェル硬さ試験」「ショア硬さ試験」について述べます。
そもそも「硬さ」とは何かというと、定義するのが難しいものです。定義が定まらないので、たくさんの測定方法や測定値が乱立するようになっています。重さや長さのような統一した基準がないということです。
上記の4つの代表的な試験方法以外にも例えば、
ヘルツ硬さ、マイヤ硬さ、マルテンス硬さ、モノトロン硬さ、ルドウィック硬さ、松村硬さ、デュロメーター硬さ、バーコル硬さ、リーブ硬さ、モース硬さ、やすり硬さ、衝撃硬さ、グランド硬さ、オニール硬さ、ビヤバウム硬さ、バレンティン硬さ…、などがあります。
最近では、超音波や磁界を利用して硬さを測定するものもあります。とにかく、たくさんの試験方法が今まで考案されてきました。
しかし、たくさんある硬さ試験方法を分類すると大きく3つの系統に分けることができます。
①押し込み硬さ…硬い物体を押し込んでその窪みの状態から硬さを測定していく方法
②動的硬さ…試験片にぶつけてその跳ね返りの状態から硬さを測定していく方法
③引っ掻き硬さ…引っ掻いたときに傷がつくかどうかで、どちらが硬いかを測定していく方法
ブリネル硬さ・ビッカース硬さ・ロックウェル硬さは①の「押し込み硬さ」の系統になります。ショア硬さは②の「動的硬さ」の系統になります。
硬さとは「他の物質により変形させられるときの抵抗の度合いの大小又は抵抗を示す一定の尺度」と一応は定義することができそうですが、実際には工業上さまざまな試験方法(定義)とそれに対応した固有の一定の値(硬さ尺度)が使用されているのです。
硬い柔らかいは日常生活ではごく普通に使われている感覚ですが、工業上も重要な概念であることには変わりありません。硬さは、引張強さや耐力、弾性係数、降伏点、靭性、展延性など他の機械的性質と関連しています。硬さはそれらの数値よりも比較的簡単に測定できることから、代用特性として使用され、上記のようにさまざまな方法が実用化されてきました。
ブリネル硬さは1900年にスウェーデンのヨハン・ブリネルによって考案されました。一番最初に考え出された硬さ試験の方法です。その後の硬さ試験の方向性を決めた試験方法です。
試験方法は、球形の金属球を試験片に押し当てて、荷重を除いたあとに残った永久窪みの表面積を測定し、試験荷重を表面積で割った値をブリネル硬さとします。
球形の金属圧子が鉄のときはHB、鋼のときはHBS、超硬合金のときはHBSと表記されます。
窪みは比較的大きいので、鋳造品などの材料の平均的硬さを測定するのに向いています。
ロックウェル硬さは1914年にアメリカのヒュー・ロックウェルとスタンリー・ロックウェルによって開発された試験方法です。ブリネル硬さは計算が複雑なため、これを簡略化する目的で考案されました。
試験方法は、試験片に圧子を押し付け、できた窪みの深さを測定する方法です。深さを測定するだけなので、簡単に行えるのが特徴となっています。
圧子はダイヤモンド円錐と鋼球の2種類があります。鋼球は1/16インチ、1/8インチ、1/4インチ、1/2インチの4種類があります。また、押し付ける試験荷重は60kgf、100kgf、150kgfの3種類があります。ロックウェル硬さは、これらを組み合わせてスケール測定条件が規格化されています。
ロックウェル硬さのスケール測定条件表は次のようになります。
スケール | 圧子 | 試験荷重 |
A | ダイヤモンド円錐 | 60kgf |
D | ダイヤモンド円錐 | 100kgf |
C | ダイヤモンド円錐 | 150kgf |
F | 1/16インチ鋼球 | 60kgf |
B | 1/16インチ鋼球 | 100kgf |
G | 1/16インチ鋼球 | 150kgf |
H | 1/8インチ鋼球 | 60kgf |
E | 1/8インチ鋼球 | 100kgf |
M | 1/4インチ鋼球 | 100kgf |
R | 1/2インチ鋼球 | 60kgf |
ロックウェル硬さの記号はHRです。各スケールの記号はその後ろにつけて表記します。HRBとかHRCというように表記します。どのスケールを使用するかは必要に応じて決めます。ロックウェル硬さは簡単に計算できますが、スケールの選択が必要になります。
ロックウェルスーパーフィシャル硬さ試験というのは、試験荷重を15kgf、30kgf、45kgfで行う試験をいいます。通常では荷重が強すぎて測定できないような薄板の場合に使われます。
ビッカース硬さは、1925年にイギリスのビッカース=アームストロング社が開発した試験機に由来しています。現在、最もよく使用されている試験方法です。任意の試験力で試験できる最も応用範囲の広い試験方法といわれています。
試験方法は、正四角錐のダイヤモンド圧子を材料表面に押し込み、荷重を除いたあとに残った窪みの対角線の平均値から表面積を算出し、試験荷重を表面積で割った値をビッカース硬さとします。
特に、微小硬さ試験ではビッカース硬さを威力を発揮します。荷重1kgf以下で測定するビッカース硬さはマイクロビッカース硬さあるいは微小硬さといわれ、顕微鏡で測定されます。顕微鏡の発達により、極めて微小な硬さの測定もできるようになってきました。
ヌープ硬さというのは、ビッカース硬さと同一の試験機を用いて圧子を変更して行います。ビッカースの場合は頂角136℃の正四角錘を用いるのに対して、ヌープは頂角172.5℃で対角線比1:7.11の四角錐のダイヤモンドを用います。ヌープ硬さは微小表面積(膜厚の硬さなど)の測定に適しています。1939年にアメリカのヌープによって考案されました。
ショア硬さは、1920年代にアメリカのアルバート・ショアによって考案された試験機に由来しています。
試験方法は、鋼球を一定の高さから試験片に落下させ、その跳ね返りの高さから硬さを求めます。
ショア硬さの記号はHSです。目測で読み取る場合はHSC、ダイヤルゲージで読み取る場合はHCDと表記します。
ばねの材料強度の試験は通常は「硬さ」よりも「引張強さ」が使用されます。しかし、硬さが測定される場合もあります。
例えば、
①引張試験ができない形状のばねのとき
②強度が均一でないばあい
③破壊した製品
など、例外的に局部的に測定するときに硬さが測定されることがあります。
使用した材料の強度については材料メーカーの材料検査証には必ず引張試験の結果が記載されており、ばねメーカーで硬度試験を行うことはそれほど多くはありません。特に、冷間成形ばね(常温で製造する通常のばね)の材料の場合は、ほぼ100%引張強さで強度を表示します。
どしても硬度が知りたい場合には次の簡易的な計算式が便利です。引張り強さ(MPa)から硬度を求めることができます。しかしあくまで、近似値です。
ピアノ線・硬鋼線 引張強さ=5.2HV-792
ばね用ステンレス鋼線 引張強さ=5.0HV-550
オイルテンパー線 引張強さ=2.8HV+300
焼入れ焼戻し材 引張強さ=3.27HV=20~29HS=32~38HRC
また、引張強さと硬度は関連しており、換算表があります。
JIS規格 | 名前 |
B 7724 | ブリネル硬さ試験―試験機の検証 |
B 7725 | ビッカース硬さ試験―試験機の検証及び校正 |
B 7726 | ロックウェル硬さ試験―試験機の検証及び校正 |
B 7727 | ショア硬さ試験―試験機の検証 |
B 7730 | ロックウェル硬さ試験―基準片の校正 |
B 7731 | ショア硬さ試験―基準片の校正 |
B 7734 | ヌープ硬さ試験―試験機の検証 |
B 7735 | ビッカース硬さ試験―基準片の校正 |
B 7736 | ブリネル硬さ試験―基準片の校正 |
G 0557 | 鋼の侵炭硬化層深さの測定方法 |
G 0558 | 鋼の脱炭層深さ測定方法 |
G 0559 | 鋼の炎焼及び高周波焼入硬化層深さ測定方法 |
G 0561 | 鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法) |
G 0562 | 鉄鋼の窒化層深さ測定方法 |
G 0563 | 鉄鋼の窒化層表面硬さ測定法 |
H 0563 | 鉄鋼の窒化層表面硬さ測定法 |
Z 2243 | ブリネル硬さ試験―試験方法 |
Z 2244 | ビッカース硬さ試験―試験方法 |
Z 2245 | ロックウェル硬さ試験―試験方法 |
Z 2246 |
ショア硬さ試験―試験方法 |
Z 2251 | ヌープ硬さ試験―試験方法 |
Z 2252 | 高温ビッカース硬さ試験方法 |
Z 3101 | 溶接熱影響部の最高硬さ試験方法 |
Z 3114 | 溶着金属の硬さ試験方法 |
Z 3115 | 溶接熱影響部のテーパ硬さ試験方法 |
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