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2018/12/26

日本の産業を支える~顧客と一体になったばねづくり~ 大阪商業大学講演2

吉村篤
ばねとくらす

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日本の産業を支える

~顧客一体となったばねづくり~

 

地域産業復興論

大阪商業大学講演記録2

フセハツ工業株式会社 代表取締役社長 吉村篤

 

 

ばねの歴史 ~モノづくりの原点~ 

ばねはいつごろから作られてきたのでしょうか。

ばねというものは弾むものです。力を蓄えて反発させることによって、便利な機能を生み出すものです。

今現在、目にしているばねは、金属ばねが中心ですが、別に金属に限らず、力を蓄え反発させるものなら、いろんな素材があるわけです。

最近ではプラスチックなどもあります。昔は金属でなく自然の木の弾性力をばねとして利用した道具も多く作られました。

 

ばねの原点、最古のばねは弓矢だと言われています。

縄文時代には鏃が発見されています。大体今から1万5千年から1万年ぐらい前のものと言われています。

鏃があるということは、それを飛ばす弓矢があったといことが推定されています。弓矢は木製なので残っていません。

世界的に見ても1万年ぐらい前には、もうばねの原理を利用した道具が開発されていたといわれています。

 

石器自体の誕生はかなり古く、250万年~300万年前に遡ります。

鏃という精巧な石器を作り、それをばねという目に見えない力をコントロールする道具の弓矢の誕生まで少なくとも石器誕生から200万年以上の時間がかかっています。

ばねというのは力です。目に見える石器のような道具から目に見えない力をコントロールするばね道具をつくる能力を獲得するまで、長い人類の進化があったといえます。

ばねというのは、目に見えないものも道具化できる能力をもった私たちのような現生人類に進化してから、誕生したものだといえます。

ばねを使った道具の誕生によって、人類のものづくりはその後飛躍的に発展していくことになります。

現在のものづくりの原点は、ばね原理の発見にあると私は考えています。

 

 

日本最古の金属ばね 

日本で最古と言われている金属ばねは、鉄砲の種子島です。

鉄砲のこの弾く部分が板ばねになっています。金属ばねの量産の一番はじめと言われています。

ばねというのは普通の鉄を曲げただけではばねになりません。単なる鉄では力を加えると曲ったままで瞬発力がありません。

ばねの材料は鋼です。ばねは、単なる鉄ではなくて、鉄と炭素の合金である「鋼」で製造します。それに熱を加えて色んな性質、硬さとか粘りとかを出します。

 

当時の日本は戦国時代で刀鍛冶の技術が発達していました。刀の表面は鋼でできています。鋼を作る技術が高かったので、ばねも直ぐに量産できたと考えられます。

質の高いばねが量産できないと鉄砲は生産できません。日本の産業技術、ものづくりの原点に鋼を使ったばね技術が重要な役割を果たしました。

鉄砲技術が、長篠の合戦のように戦国時代の流れを変えました。その裏にばね技術の発達がありました。

 

現在、日本のばね材料の生産技術は世界でも最も高い水準にあります。鋼の中の成分コントロールと熱処理の技術が高度に発達しています。

精密なばね、高機能なばねの製造には、高品質なばね材料の存在が欠かせません。

 

 

ばね鋼の材料 ~鉄と炭素、地球資源~ 

ばね鋼の歴史です。基本的に鋼は鉄ではなく、鉄と炭素の合金です。鉄と炭が合体して鋼になります。

そして、その鋼を使って、熱を加えていろんな性質を出すようにばねを作っているわけですが、この鉄と炭は鉄鉱石と石炭です。

ばね鋼の場合は、ほとんど1から作ることが多いです。鉄鉱石と石炭から、製錬して作ります。リサイクルで集めた材料でつくるということはあまりしません。

私たちは、もともとの資源からつくられた材料を使って、ばねという部品を加工させていただいています。その原料となる鉄鉱石や石炭は地球の大切な資源です。

石炭は太古の昔の木です。それが積もり積もって圧縮してできたものです。今から3億年ぐらい前の石炭紀と言われる時代です。

地球上で初めてジャングルができた時代です。当時は木を分解するバクテリアが進化していませんでしたので、5000万年以上もかかって木が腐らずに圧縮されて石炭ができました。

鉄鉱石も、地球が恵んでくれた大切な資源です。今から27億年以上前に、シアノバクテリアが鉄鉱石を作ったと言われています。

当時の地球は磁場がなく危険な放射線が地球上に降り注いていました。生物(微生物)は光の届かない場所で生きていました。光に当たることは死ぬことを意味したからです。

その後、磁場が誕生し北極と南極ができると、地球全体が磁力で覆われ、有害な放射線からガードされるようになりました。光にあたることが安全になりました。

光を積極的に利用して光合成して生きる生物が進化し、シアノバクテリアが誕生しました。このシアノバクテリアが現在使用している大量の鉄鉱石をつくる原因となります。

鉄鉱石は、次のような過程を経て誕生しました。

そもそも地球の成分のうち35%は鉄です。当時の地球の海には大量の鉄のイオンが溶け込んでいました。大気には酸素がほとんどなく、二酸化炭素が大量にありました。

シアノバクテリアは、安全になった光とたくさんある二酸化炭素を利用して、生命エネルギーを生み出し、廃棄物として酸素を吐き出しました。

酸素は鉄イオンと反応し、酸化鉄となります。1つ1つの微生物が吐き出す酸素量は小さいですが、シアノバクテリアの大量発生は何億年にも渡って酸化鉄を発生させ、海底に莫大な酸化鉄が積りました。当時の海は青くなく赤かったようです。

その降り積もった酸化鉄が圧縮され鉄鉱石になったと言われています。太古の地球の長い歴史の中で作られた貴重な資源が鉄鉱石と石炭です。

それが現在、鉄鉱石と石炭の成分を精度高くコントロールできるような時代になって、ばねの技術も高度に発展してきたのです。

 

 

フセハツ工業歴史 ~東大阪と奄美大島と~ 

フセハツ工業の創業者は、戦前に奄美大島から東大阪にやって参りました。

戦後すぐに金物屋から独立して、この東大阪の地で、「ばね作」という名前で創業しました。その後、1950年に布施発条工業所として法人となり、昭和41年に現在の社名「フセハツ工業」になりました。

「フセ」というのは、東大阪になる前、この地域は布施市でしたので、その地名から来ています。「ハツ」というのは、ばねのことを発条といところから由来しています。

創業期には仕事が忙しくなってくると、奄美大島の田舎から親戚をたくさん大阪に呼んで、ばねづくりを手伝ってもらったようです。

ただ、当時は戦争が終わってすぐでしたので、奄美大島はまだアメリカ領でした。

大阪に来るということは一種の密入国みたいな形で、当時の人は非常に苦労して大阪に出てきて、自分たちの仕事や生活を守りました。

こういった奄美大島の方々と、そしてこの地場の東大阪の人たちが融合して、創業期に昼夜を問わず一生懸命働いて、のちの発展の礎を築いてくれました。

 

 

ばね作業風景

 

 

当時の作業風景の写真です。最初に見ていただいた機械とは全然違います。旋盤式のコイリングマシンです。

ベルトが天井にくっついていまして、そこから動力をつなげてコイリングを行ないました。

当時としては最新鋭の設備で、このようにしてばねづくりを進めておりました。

 

 

フセハツ工業 正月風景

 

当時の正月の写真です。正月になると、従業員がみんな集まって、社長とともにお節料理やお酒を飲んで正月を祝いました。

九州から集団就職で出て来た方もたくさんいて、当時は社長夫婦が食事はもとより、仕事から生活すべての面倒を見ていました。

これが当時の町工場の恒例の風景でした。

また、この写真の中には、独立してばね会社を起業した人が何人もいます。フセハツ工業から独立した人は十数人にのぼります。

 

 

経営理念について 

フセハツ工業は創業されて、私で4代目になります。初代、二代目は病気で突然亡くなり、何の準備もなく事業承継されました。

私は4年前に社長を継いだのですが、そのとき初めて先代が生きているうちに交代することができました。

経営を引き継ぐにあたり、一番大切にしたのが先代の経営理念です。

フセハツ工業の経営理念は、「弾む原理を進化させ、小さくても大きな使命をもって、社会に貢献すべし」です。

「弾む原理を進化させ」というのは、言うまでもなく、ばねの原理です。人間の誕生以来、ずっと連綿と受け継がれてきた大切な技術です。

この技術を今後も発展させていこうということです。技術には最新のものもあれば、なくなっていく技術もあります。

進化というものは決して最新のものばかりでなく、古い技術も現代風にアレンジしてよみがえらせることも大切です。

「小さくても大きな使命と責任感をもって」というのは、ばねの部品は一つ一つは小さく、また1社でできることは小さいですがが、

そこから、日本、あるいは世界を支えてるような、そのような気概をもって仕事をしようということです。

「社会に貢献すべし」とは、ばねづくりを通してフセハツ工業が発展していくことを通して、世の中、社会、地域に貢献できるような会社にしていきましょうということです。

これが、フセハツ工業の経営理念です。

 

(その3につづく)

 

>大阪商業大学講演1

>大阪商業大学講演3

 

 

 

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