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2019/02/01

日本の産業を支える~顧客と一体になったばねづくり~ 大阪商業大学講演3

吉村篤
ばねとくらす

日本の産業を支える

~顧客一体となったばねづくり~

 

地域産業振興論

大阪商業大学講演記録3

フセハツ工業株式会社 代表取締役社長 吉村篤

 

地域産業振興 ~イノベーションについて~

 

イノベーションと企業家

地域が疲弊している言われています。東大阪は、昔は1万社の中小企業がありましたが、今は6000社くらいしかないと言われています。

地域産業の復興にはイノベーションが必要だとよく言われますが、これについて私なりの考えを述べてみたいと思います。

企業活動というのは、基本的には新しい顧客を創り続けることです。新しい顧客を創れなくなってしまった時点で、企業としての存在意義がどうかということになると思います。

景気や人口減など外部的な要因で新規顧客の創造が影響されることはあると思いますが、それだけではないと思います。むしろ企業内部の要因のほうが大きいのではないかと考えています。

企業内部の要因というのは、一言でいうとイノベーションと言われることです。

イノベーションというと、技術革新と翻訳されることが多いです。オンリーワンの物凄い技術を持ったら会社が変わり、地域も変わると言われたりします。

しかし、私の実感としては、それは少し違うかなと考えています。凄い技術があっても、つぶれる会社はつぶれてます。高度な技術力・研究開発力と会社の成長との関係性ははっきりしないことが多いです。

その会社が世の中の役に立っているのかどうかということとは、直接的には関係ないように思います。 

では、イノベーションとは一体何でしょうか?この言葉の意味を原点に振り返って考えてみましょう。

イノベーションという言葉は、今から100年以上前の1911年にオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによって提唱された概念です。

もともとの意味は技術革新ではありません。「新結合」という意味です。違うものと違うものをくっつける活動がイノベーションです。

それによって今までになかった価値観であったり、アイデアだったりが出てきて、新しい知見やサービス・製品・会社・人のつながりなどが生まれて変わっていく。それが、イノベーションの本質です。

イノベーションによって、順番としては、まず人が変わり、企業が変わり、そして世の中が変わります。このイノベーションできる人のことをシュンペーターは「企業家」と呼んでいます。

 

中小企業とイノベーション

中小企業は大企業に比べて革新的な技術開発という点では難しいところがありますが、「新結合」という意味のイノベーションというこの考え方は、逆に中小企業のわれわれにしかできない課題ではないかなと思います。

日本にある全企業のうち中小企業は99.7%で、そこで働いている人は70%を占めると言われています。

日本にある企業のほとんどは中小企業です。中小企業がいろいろな形で結合してイノベーションしていけば、そのインパクトは大変大きなものがあります。

ここがまず変わらないと、世の中は良くならない。変わるためにはどうすればよいのか? 

フセハツ工業の場合を例に考えてみると、会社が創業期に発展していた時代は確かに高度成長期という時代背景もあるのですが、異質なもの同士の結合がさかんだったように思います。そこから会社の発展が生まれてきたという歴史はあったと思います。

創業期は奄美大島出身者と河内の人間が半分づつの割合でいて、言葉や文化が違う中で仕事をしていました。

当時はほとんどなかった機械式の旋盤などもどんどん導入したり、まだ海外旅行が珍しかった時代に創業者はアメリカやヨーロッパなど海外にもよくいったりしたようです。

そのような知見があって、運動器具のエキスパンダーなどが自社で開発されました。いろんなものを見て回ってきて、それでばねで何かできないかなということを考えて誕生したそうです。

そういう大きな世界とつながる活動や、異質なもの同士をつなげるということをやっていく中で、何ができるかということを、われわれ中小企業は考えていかないと駄目かなと思っています。

また、当社から独立してばね屋を起業した人も何人もいますが、そういった当時の企業風土が起業家を生む土壌になっていました。

 

中小企業と企業家

人が変わって、企業が変わって、世の中が変わる。

会社というものはなかなか変わらないです。まずは、人が変わらないと会社は変わらない。人が変わるところが根本的には一番大事なことになってくると思います。

今の中小企業は、私の周りを見ていても、本当に会社を続けたいと思っているのか疑問に思うことが多々あります。

高齢化してやめられる方もいらっしゃるのですが、本当に自分の会社が必要だと思われているかを真剣に考えて、必要な会社でしたら、次に引き継がせようと思うはずです。

が、それをやめてします。もう自分だけでいいという感じになってしまっているところが、私の見ている範囲でも見受けらえることが多少あります。

根本的にはそこにいる経営者、企業家というものが、考え方を変えていかないといけないと思います。 

イノベーションには「強い意志」が必要だとシュンペーターは言っています。イノベーションにはすごい機械やすごい技術があっても、やり抜く強い意志、情熱、気力がないと駄目だということです。

強い情熱があるかないかでイノベーションが起こるか起こらないかが決まるということです。そういう気持ちでやろうとする若い企業家や事業を継承していこうとする企業家がいないと駄目だということです。

そういう人が1人でも多く誕生するような社会になっていかないといけません。

 

フセハツ工業の新卒採用活動

フセハツ工業の新卒採用活動は、次の経営者(企業家)を育てるという明確な目標を持っています。

私が社長になる前は中途採用しか行っていませんでしたが、会社に危機があったときには新卒から育成した若い社員の力が絶対に必要だという信念で新卒採用を始めました。

大企業と同じ時期に採用活動をスタートしています。

100人中99人は保守的安定志向で大企業がいいと思うかもしれません。会社を経営するとか、起業するとか、イノベーションとか、そのなのいいわと思う人がほとんどではあります。

けれども、そういう人ばっかりになってしまったら、世の中どうなるかわかりません。イノベーションは起こらないし、地域産業の振興も絶対に起こりようがないわけです。

私としては、小さな試みではありますが、経営者募集をやって、幸いなことに出会いがあって、毎年2人づつ入社しています。

ご両親のご理解も得て、私のパートナーとしてがっちり握手できる学生のみに内定を出しています。「2人入社してほしいから内定辞退を想定して5人に内定を出す」といったようなことは一切行っていません。

 

まとめ

現代の世の中は企業というものでなりたっており、やはり根本的には経営者の考えやどう行動するかということにかかっていると思います。

外部環境が、円高になろうが円安になろうが、企業数が増えようが減ろうが、人口が増えようが減ろうが、あまり本質的な問題ではないように思います。

学生の皆さんの中から、経営者になろう企業家になろうという人が1人でも多く出てきてもらうことが、世の中を変える地域を変える原動力です。

数は多くなくてもいいので、1人でも確実にそういう人が各地域に出ることが地域産業の振興に繋がります。

微力ながら私も企業活動を通して、そうような志ある若者の支援育成ができればと、頑張りたいと思います。

学生の皆さん、今日はどうもご清聴ありがとうございました。

(おわり) 

 

※付録 講演者のメモ※

シュンペーターの「イノベーション」と「企業家」について 

イノベーションとは

 ①イノベーションの成功は知力の賜物ではない。意志の問題である。

 ②「新しいこと」のみが成長の源泉であり、それを担うのが企業家である。

 ③「新しいこと」を発明する必要はない。

 ④「新しいこと」は、社会的慣習に反していて、心理的に人がやろうとすら思わないことである。 

企業家に必要な能力

 ①本質を見抜く洞察力

 ②新しい方向への意志の持続力

 ③社会の抵抗を克服する忍耐力 

企業家活動とは

 ①発明家とは違う(技術を発明する人ではない)

 ②経営管理者とは違う(PDCAを管理する人ではない)

 ③資本家とは違う(資本を持つ必要はない。投資して貰えばよい) 

創造的破壊とは

 ①創造的活動は事後的に必ず理解されるが、事前には絶対というくらい誤解され理解されない。

 ②創造的活動は社会と経済状況を恒久的に変化させる。

 ③企業家による創造的活動のみが資本主義社会における経済変化をもたらす。

 

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