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2015/03/12

人類最古のばねとは?

吉村篤
ばねとくらす

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人類最古のばね

ばねはいつ発明されたのでしょうか。

人類最古のばねは、どのようなばねなのでしょうか。

ばねは、物質に力を加えたときに元に戻ろうとする力を蓄積して利用するものをいいます。材質は金属の他にも色々あります。弾性があればばねに利用できます。

現在主流の金属コイルばねは、15世紀に錠前に使用されたのが最初です。

では人類最古のばねはどのようなものかというと、それは「弓」です。人類が初めて物質の弾性を利用して作った道具です。通説では、今から約1万5千年前に発明されました。後期旧石器時代にあたります。

もちろん人類最古の弓を見た人はいません。弓自体は植物の蔓などを利用して作られたと考えられているので残っていません。

では、どのようにして年代を推測したのかというと、矢の先端に使用されてた小さな石器を分析して年代を割り出しました。こちらは材質が石なので残ります。

矢に使用した小さな石器の最古のものが約1万5千年前と推定されるので、「矢とセットの弓も同じく約1万5千年前であろう」ということです。

 

最古のばね「弓」は、どのようにして発明されたのか?

弾性を利用する道具というのは当時としてはかなり革新的です。力は目に見えないものなので、そのような目に見えないものを利用するというのは大胆な発想の転換が必要です。

弓はなぜ発明されたのか?発明せざるを得なかったのか?必要性がなければ発明されません。

おそらく相当な長期間にわたる人類の試行錯誤の上に「弓」が発明されたと思われます。そこまでして実用できる「弓」を作らなければならなかったのは、当時の人類にとって生存を脅かす相当切迫した状況があったものと思われます。

今から約1万5千年前、地球上で一体何が起こっていたのでしょうか。当時の地球環境を見てみましょう。

 

「ばね」が発明された約1万5千年前の地球

今から約1万5千年前というのは、最終氷期が終わった時期とちょうど重なります。地球環境が劇的に変化した時期です。最後の氷期の期間は、今から約7万年前~約1万5千年前です(ヴュルム氷期)。遅くとも約1万年前には終了しました。

学術的には北極と南極に氷床がある時代を氷河期というので、現在も氷河期です。氷河期の中でも氷床が発達している時期を氷期といい、比較的暖かい時期を間氷期といいます。現在は間氷期が約1万2千年ほど続いているといわれています。

長い目でみれば、数万年後には氷期がやってきて、地球は厚い氷床に覆われます。現在の人類による地球温暖化がどの程度の影響を及ぼすのかは未知数ですが…。

さて、弓矢が発明された後期旧石器時代というのは、今から約3万年前~約1万年前をいいます。石器の製造技術が急速に発達しました。実用的な矢の製造には、石器製造技術の高度な発達が前提となります。このような精密石器はホモ・サピエンスが製造していました。

後期旧石器時代には、ホモ・サピエンス以外にもネアンデルタール人など別の人類も同時にいましたが、約2万年前に絶滅しました。これらの人類は精密石器を生み出すこともありませんでした。

ばねの力を利用した道具である弓が発明された約1万5千年前は、ちょうど最後の氷期が終わり現生人類であるホモ・サピエンスが高度な石器文化を築いた時代でした。

また、この時代はマンモスやサーベルタイガーなどの大型哺乳類の大量絶滅時期でもあります。地球環境が激変した時代です。このような環境の変化が、弓矢の発明を求めていました。

では、地球環境の変化と弓矢の発明にどのような関係があるのでしょうか。

 

地球の環境変化と食糧難

絶滅した大型哺乳類が直面した状況は、当時の私たちの祖先も直面した危機的状況でした。

マンモスが絶滅した有力な原因として、冬期でも存在した広大な草原が消滅したことがあげられます。

氷期は氷床に大量の水分が保有され、乾燥した気候です。寒くても雪はあまり降りません。氷期が終わり温暖多雨化して、大規模な森が出現しました。また、今まで雪の降らなかった大草原に、雪が何メートルも深く降り積もるようになりました。

マンモスは大きすぎて森の中の移動は困難ですし、深い雪の中も移動できません。草原は深い雪の下になり、食糧がなくなりました。

サーベルタイガーが絶滅した原因もやはり食糧がなくなったことが有力視されています。

それまではノロノロ移動する大型哺乳類が多くいたのですが、氷期の終了で小型哺乳類が主流になりました。小型哺乳類はすばっしこく、走るスピードが時代を追うごとにどんどん進化していきました。

サーベルタイガーは力が強力で大型哺乳類を捕まえるには適していましたが、早く走ることはできないため、時代について行けなくなって絶滅したと考えられています。

大規模な草原の消滅と巨大な森の出現、大型哺乳類の大量絶滅と高速移動する小型哺乳類の進化に、ホモ・サピエンスも対応しなければ「絶滅」という同じ道をたどったでしょう。

 

ばねを利用した人類初の道具

このような人類の窮地を救ったのは「ばね」でした。狩猟道具として、物質の弾性を利用した「弓」が発明されたのです。

森の中では大型哺乳類を倒すときに使用した大きな槍を振り回すことはできません。また、槍は広々した草原での集団狩猟に適した道具でしたが、森の中の薄暗い込み入った地勢は集団狩猟に向かず、個人狩猟に適した道具が必要になりました。

弓はこのような問題を解決しました。弓は小さく軽くて森の中でも持ち運びが簡単にできます。軽い矢をたくさん持つことで何度でも連続て攻撃でき、個人でも集団狩猟と同じ効果を得ることができます。

また、スピード化した小型哺乳類に対しては槍は有効でなくなりました。かといって、罠をしかけて小型哺乳類を捕まえるのは効率的ではありません。

弓矢はこのようなスピード化した小型哺乳類を仕留めるのに威力を発揮しました。槍では近くまで寄らないとダメだったものが、遠くから何度も狙えるようになりました。弓矢を使えば鳥も捕えることができるようになったのも、槍との大きな違いです。

このようにして、当時の人類は地球環境の激変による食糧難に対応していきました。

弓矢は瞬く間に地球上で使用されるようになったと考えられていますが、最近まで弓矢という道具を知らなかった唯一の民族がオーストラリア大陸の原住民です。

オーストラリアの原住民が知能が低かったというわけでは決してなく、槍で十分だったので弓矢が必要なかったのだと思われます。オーストラリア大陸の大草原にはつい最近までノロノロした大型哺乳類(有袋類)が絶滅せずに存在していたのです。

 

ばねと人類の創造力

ばねの弾性を利用した道具を創造したのは、現生人類のホモ・サピエンスが最初です。

目に直接的には見えない「力」というものを想像することで、弓矢を創造しました。これは私たちに独特の「モノづくり」の特徴です。私たちは「目に見えるもの」だけでなく「目に見えないもの」も組み合わせて道具を作り出します。

このような目に見えないものを想像し創造する力は、飛行機を発明したり、地球にいながら銀河系の大きさを測量したりできるようにしてきました。不可能だと思われることを、試行錯誤の末に可能にしてきた秘密です。

「ばね」を利用した人類最古の道具である「弓」は、私たち現生人類であるホモ・サピエンスの「モノづくり」の原点といえます。 

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