日経産業新聞「ミドル企業きらり」に掲載されました。
吉村篤中小経営
ミドル企業 ☆きらり
車から日用品まで1万種
■社員若返り、ウェブ強化
フセハツ工業 ばねの総合メーカー
ばねの総合メーカー、フセハツ工業(大阪府東大阪市)が経営体質の強化に取り組んでいる。
先頭に立つのは2013年に就任した「4代目」の吉村篤社長。
祖父が創業した町工場を近代化し、事業承継や技能伝承など製造業が直面する課題に真正面から向き合う。
「ガチャ、ガチャ」。
住宅街にある本社工場。
自動加工機が線材を巻いたり、曲げたりして作るばねが箱を埋め尽くしていく。
別の一角では社員は古い機械を操作し、丁寧に仕上げる。
ばねは自動車部品から洗濯ばさみなどの日用品まで幅広い用途に使われる。
コイルを圧縮したタイプや引っ張るもの、板状のばねなど形も種類も豊富だ。
トラック・バスなどのクラッチに使われるばねが全体の4割を占め、6割は日用品や医療機器向け。
顧客は約800社に達し、約1万種類のばねを作るという。
「工場は『原風景』、ものづくりをやめたくなかった」。
子供のころから工場を手伝っていた吉村社長は教育業界を経て20代で入社。
父で先代社長の健一氏(会長)を補佐していたが、リーマンショックなどもあり業績不振に陥った。
生産から撤退し卸しへの転業を主張する父と意見が対立、最終的には吉村社長が引き継いだ。
手を付けたのが社員の若返りだ。
60歳以上の社員が約半数で、中途採用が大半。
朝礼に遅れたり、午後から営業に出かけたりするなどモラルが低かった。
高校生・大学生の新卒採用を始め、年2~3人の採用を続けた。
現在は40歳未満の社員が4割程度。
「意欲の高い学生らを採用した結果」(吉村社長)、女性社員の比率も就任時の31%から44%に上昇した。
女性が働きやすいようい工場も整理整頓を徹底した。
同時に進めたのがウェブサイトを軸にした情報発信だ。
大学生らにばね作りを知ってもらう狙いから、サイトに掲載する情報を増やしたほか、自前で撮影した工場の映像を動画サイト「ユーチューブ」で公開した。
試作品に使うばねなど1個単位から注文を受けるコーナーも設置。
すると、大手メーカーの研究所や老舗の劇団などから続々と注文が入った。
吉村社長は「採用に忙殺され、苦肉の策として始めた」と話す。
だが、試作品は量産品に比べて高採算。
宣伝効果も大きく、社員の士気もあがった。
売上の1割程度がWebからの新規注文だ。
一連のてこ入れ策が奏功し、黒字体質が定着し累積損失も3年で一掃できた。
それでも慢心はない。
祖父の下から独立した職人などを長年外注先として関係を保ってきたが、高齢化で廃業するとことが出てきた。
機械を譲り受けて生産を引き継いだケースもある。
「古い機械の補修なども学ぶ必要がある」(吉村社長)。
ばねを加工する機械も、作っている会社は国内にはごくわずか。
加工機も自前で設計・組み立てができるよう、技術者の育成などが欠かせないとみる。
日経産業新聞
2018年(平成30年)10月23日(火曜日)